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本当の染織レッドリスト / 日本人と大麻

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美しいキモノの2年に渡る特集「次世代に残したい染めと織り 〜染織レッドリスト〜」では、日本全国各地に残る染織品の編纂をしています。私も一部ですが取材と寄稿をしています。次号はその番外編。この中に企画として提案したものの残念なことに採用されなかったものがあります。それは産地別ではなくて、素材そのもののレッドリスト、日本人にとって一番身近であったにも関わらず、生産が1%にも満たない状況となっている「大麻」と「和棉」についてでした。

 

先日、日本で産業用大麻草の栽培許可を得ていた鳥取県智頭町の会社代表が大麻取締法違反の疑いで逮捕されました。そして昨日、医療用大麻の解禁を訴える活動をされていた女優さんがやはり大麻取締法違反の疑いで逮捕されました。

 

これによって、大麻へのさらなる誤解や偏見が拡散するのでは…と懸念しています。

 

なので、日本人の生活と共にあった <繊維としての大麻> について、今のタイミングでザックリとですが、まとめます。

 

身分制度があった時代、絹を纏うことが許されたのは支配階級だけであり、庶民は麻の衣服を着ていました。かつては「布」といえば、大麻や苧麻などの「麻」のことでした。

 

今の日本では「麻」という言葉が、大麻(ヘンプ)、苧麻(ラミー)、亜麻(リネン)、黄麻(ジュード)などの草の皮から繊維を採る靭皮繊維の総称としてつかわれていることにより、とてもまぎらわしい状況です。

 

大麻草(英名はヘンプ)はアサ科の植物。現在は主に海外産機械紡績糸のことをヘンプといいます。呉服業界で機械紡績苧麻糸をラミーというのと同じようなものでしょうか。※写真はwikipedia commons より


今の日本で「大麻」というと、とてもネガティブな、聞いてはいけないもののような反応をされますが、古来から日本で栽培されてきた大麻草は麻薬成分をほとんど含まず、戦前までは、漁網や釣り糸、自家用の衣類や縄などにもつくられつかわれていました。日本人にとっての大麻は、古の時代から神仏事に欠かせないものであり、布といえば麻であった時代、大麻は生活とともにあったといわれています。

 

日本での大麻草栽培は、第二次世界大戦終戦後GHQの指示によって禁止され、現在では許可制のみ。大麻は戦争中の重要な軍事物資であったため、(アメリカでは大麻農家は徴兵免除の例あり)日本に戦争をさせないための政策として大麻草栽培を禁止したのだそうです。大麻は1年草のため、1年以上種まきがされないと次の発芽が難しい。そこで一部の農家に大麻の栽培を許可することになりました。これが大麻取締法の成り立ちです。※写真は大麻博物館の高安館長のレクチャーより

 

大麻は成長が早いので、麻の葉文様は子供の成長を願う文様としてつかわれ、学校校歌や校章にもよくみられます。麻の葉文様はこの大麻からきています。

きものの文様としてもつかわれます。

 

大麻は「おおぬさ」といわれ、穢れを祓うものといわれています。

伊勢神宮の神宮大麻というお札。中にはお祓いに用いられる用具「祓串」があります。

お払い箱の語源は、先年の伊勢神宮の神宮大麻を入れた箱というお話。お祓いとお払いをかけて、つかえなくなったものをお払い箱というようになったようです。


盂蘭盆会の送り火と迎え火につかう苧殻(おがら)は大麻草の茎です。

ご先祖さまがあの世とこの世を行き来するための乗り物である精霊馬(しょうりゅううま)の足にもつかわれます。胡瓜は馬のようにあの世から早くいらっしゃるように、茄子は牛歩の歩みのようにあの世へ帰るのが少しでも遅くなるように、また供物を牛に乗せてあの世へ持ち帰ってもらうという意味が込められています。※写真はwikipedia commons より

 

日本の国技である相撲は神事でもあります。

横綱の綱は大麻の精麻(大麻の茎の靭皮から取られた繊維)を米糠で柔らかくして油分をとったものがつかわれています。

 

茅葺き屋根の庇にも、

 

神社の注連縄も大麻です。

 

天皇陛下の即位の年の大嘗祭でお召しになられる麁服(あらたえ)は、阿波忌部族(あわいんべぞく)の大麻の織物であるといわれています。白妙は楮?

この辺りのことが今ひとつわからないので、来月は四国へいきます。

写真は民俗学者の竹内淳子先生の所蔵のもの。

 

大麻の靭皮から繊維を取り出し糸にすることは容易ではありません。とても手間がかかります。なのでまさに絶滅危惧の状態で次世代への継承は難しいといわれています。今もわずかにですが国産の大麻草が合法で栽培され、それをつかった糸をつくっている人たちがいます。私もワークショップでは、大麻の糸績みを何度か体験しました。

これを帯にすると…、とても高額なものになってしまうのです。

 

そこで考えたのは、大麻糸をつかった家紋刺繍でした。大麻糸には天地があり手績みの糸なので毛羽もあるのですが、卓越した技を持つ家紋刺繍師の手にかかれば可能です。ちなみに、紋はとても目立ちます。紋付を着るような場合は周り中が紋付ですので、家紋刺繍は安易に考えず、吟味されて上手なところにお願いされることをおすすめいたします。大麻糸のキラキラ感に感動いたしました。

 

袷の万筋の江戸小紋にも大麻糸での家紋刺繍をお願いしております。

 

魔は背から入るといわれ、背縫いのない一つ身のきものには「背守り」がつけられます。背守りともなる背の一つ紋の家紋に大麻糸をつかうというのは、実はとても意味のあることなのです。

 

私はスピリチュアルなことには興味がありませんし、どちらかといえば距離をおいています。ですがその土地の風土や信仰には畏敬の念をもちたいと思っています。

 

伊勢神宮や明治神宮の正式参拝の装いは、本来は紋付の装い。そして参拝では大麻を奉納していました。伊勢神宮や明治神宮の正式参拝に大麻糸の家紋刺繍の準礼装で、というのは、気持ちの問題ですが、とても良いと思うのです♪

 

日本人の生活と共にあった「大麻」

歴史的背景と正確な情報が次世代にまで伝わりますように、願ってやみません。

 

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