衣更えの慣習では、10月1日からは冬物、着物では袷となりますが、日常に着るものは気候にあわせて臨機応変に着るべきと考えています。今の気候にあうものでなければ、着物を着る人が少なくなるのは自明の理です。着物は着るものなのですから、着心地の良いものを選んで着るのが当たり前のことだと思います。
式典やお茶会などの準礼装や礼装は、そもそもが着心地などではなく、しきたりに合わせた格のある装いが求められますので、基本的に衣更えに合わせます。しかし昨今では夏の結婚式の花嫁衣裳が袷仕様であったり、黒留袖も袷で統一されていることが多く、式典もその会に応じた装いが相応しいようになってきました。
これからはマニュアルではなく、思慮深さと教養に裏打ちされたその場にあった装いが求められる時代になるように思います。(というか、そうであってほしいと願っております)
そもそも衣更えはかつては「更衣」といわれ平安時代の宮中行事として始まったとされています。当初は中国の慣習に倣い旧暦の4月1日と10月1日に夏装束と冬装束の衣更えが行われていました。※2016年の旧暦10月1日は10月31日です。
装束は重ね着であり重ね色目には四季通用の雑と春夏秋冬があります。重ね着をすることで気候にあわせて調節することも可能でした。
江戸時代の武家社会では、端午の節句と重陽の節句を区切りに年4回行われます。
旧暦4月1日~5月4日は袷(裏地がついている)
旧暦5月5日~8月31日は帷子(裏地のない麻)、単衣(裏地をつけない絹,もしくは木綿)
旧暦9月1日~9月8日は袷(裏地がついている)
旧暦9月9日~3月31日は綿入れ(表地と裏地の間に薄綿をいれたもの)
明治に入ると西洋化政策がすすみ、1872年(明治5年)11月9日には改暦が発表され23日後の明治5年12月3日を明治6年1月1日と改めて、グレゴリオ暦(太陽暦)に改暦されます。明治政府は、役人、軍人、警察官の制服の衣替えを新暦の6月1日~9月30日を夏服、10月1日~5月31日を冬服と制定しました。
現在の着物の衣更えの習慣は、明治政府の定めた洋服の衣替えに倣ったもの。
6月1日~30日、9月1日~30日は単衣(裏地のないきもの、絽ちりめん、紗あわせ)
7月1日~8月31日は薄物(麻、絽、紗、透ける織物)
10月1日~5月31日は袷(裏地のついているきもの)
着物を着る人を増やしたいと考えるならば、150年も前につくられたものに倣ったものや、わかりやすいマニュアルよりも、今の気候にあった装いの提案をしてしかるべきかと。
アレコレいう人ほど、結局は着物を着ていないように思います。現実的に考えたら10月であろうと25℃以上で湿度も高い中、袷を着ていたら体力も持ちません。できるだけたくさんの方が、今の気候にあった装いをすることが何よりだと思います。
袷を着たら暑いし、汗をかくし、お手入れが大変だし、単衣だと着物警察に非常識といわれるし…と思った方、どうか着物を着ることを諦めないでください。