「きもの」に助けられる…、ということがあるように思います。言葉で表さなくてもその想いを表現することができます。
徳が高く学識と教養が豊かであり礼儀を備えた人を「君子」といいます。私にとって、木村孝先生はまさしく君子に等しい方でした。
四君子は、中国明代の書家であり画家であった陳継儒(ちんけいじゅ)が、「梅蘭竹菊四譜」の中で「梅蘭竹菊」を四君子と呼んだことがはじまりです。日本では江戸時代の文壇粋人に好まれやがて文様としてつかわれるようになります。
「寒なれど秀、春来るを率先して報ず」
厳寒の中他の花に先駆けて咲く梅
「善人は蘭の如し、王者の香りありという」
貴人の風格があると称えられる蘭
「虚ろなるに因りて益を受く」
暑い日差しの中でも悠然と立つ竹
「身を軽くし、気を益し、人の寿を延ぶ」
延命長寿の象徴でもある菊
「梅蘭竹菊」で表す四君子文様は先生を偲ぶに相応しいように思ったのです。
偲ぶ会の装いは通例ですと、紋付の色無地に喪の帯という準礼装となります。ですが「いつも通りの華やかな装いでお越しください」というお知らせがあったこともあり、皆さまそれぞれ思い思いの装いとなりました。孝先生は彩のある色がお好きでいらっしゃいました。そしてその装いから話に花が咲きます。
孝先生は、緑色がお好きでいらっしゃいました。
「講義で大勢の人の前に長い間立つとは、皆さまの眼をつかれさせないように淡い色を、パーティーで凛と装うときには、濃い色で心を引き締める」
そうおっしゃっていらしたことを思い出して、深緑色の一つ紋色無地を選びました。
先生からいただいたお言葉、大切に大切に生かしていきたいと思います。